研究について
代表の松澤が現在取り組んでいる研究を紹介します｡
認知機能改善を目的とした経頭蓋直流電気刺激(tDCS)の応用
経頭蓋直流電気刺激(transcranial-Direct Current Stimulation:tDCS)は､磁気による刺激などと共に､幾つかある脳刺激法の1つです｡
tDCSはその名の通り､頭皮上から弱い(0.5〜2mA程度)直流電気刺激を与えて､その刺激が頭皮直下の大脳皮質神経細胞に影響し､学習や行動の変化をもたらすことを目的に使います｡
これを用いて､記憶の1種である､ワーキングメモリを向上させる研究を行っています｡ワーキングメモリは作業記憶､すなわち何か課題を行っている時間だけ頭に残している記憶であり､それを使って課題が遂行できるものです｡
私(松澤)はこれまでにtDCSでワーキングメモリが向上することや､脳波が変化することを発表しており､現在は特にADHD特性を持つ方でワーキングメモリの向上が可能かの検証をしています｡*1
いずれにしてもtDCSは装置自体がとても小型で扱いやすく､刺激による危険性は非常に低いこともあり､被検者さんにも検査者にも優しいデバイスではあります｡
このように使いやすいtDCSはざっと次の3領域で応用が進むことが考えられており､研究が世界中で行われています｡
･認知機能を向上させる・・・記憶､注意､処理速度､判断力など
･運動機能を向上させる・・・麻痺の改善(リハビリ)､筋力増加､より良い運動技能の習得など
･病気の症状を緩和する・・・うつ病の諸症状､頭痛､慢性疼痛､めまいなど
*1 tDCS関連論文
Terada H, Kurayama T, Nakazawa K, Matsuzawa D, Shimizu E. Transcranial direct current stimulation (tDCS) on the dorsolateral prefrontal cortex alters P50 gating. Neurosci Lett. 2015;602:139-44.
Naka M, Matsuzawa D, et al. Differential effects of high-definition transcranial direct current stimulation on verbal working memory performance according to sensory modality. Neurosci Lett. 2018;687:131-136.
こちらのブログも参考にしてください。
https://www.tsudanuma-ridc.com/entry/20191027/1572125943
医学･心理研究に応用可能なアプリ開発
この図形､Rey-Osterriethの複雑図形(以下､Reyの複雑図形)というのですが､その模写と記憶による再生をさせることで､視空間知覚､視空間構成､運動機能および記憶など実行機能系の様々な諸機能を評価できる優れた検査､として有名です｡
最近では発達障害(ASD,ADHD,LD)特性がこの図形の模写の仕方に反映されているのでは?という観点からも使われています｡千葉大学と弊社ライデックではASDの方にこの検査が反映する脳機能を改善していくことを目的に認知機能改善トレーニングを行っています｡その結果は論文になっています｡*2
また､高齢者の運転可否の判定に使う検査の1つとしても使っている施設もあるようで､応用範囲は広いといえます｡
ただ､いざやろうとしたときに準備に必要なものが多いことが欠点です｡図形を構成する様々な18もの要素(長方形､対角線､長い直線､ 三角形､十字など)をどのような順に描くのかを評価するには､ビデオカメラや色鉛筆の持ち替え､そして研究者は基本的にはずっとその場で被検者が描く様子を見守らなくてはいけません｡さらに､準備に必要な物が多いだけでなく､ 評価する際にも録画したビデオ映像を見るために検査実施と同じ時間を費やす必要がありますし､結果は紙ベースで蓄積する必要があります｡
これを､タブレットPC1つあれば､すぐに実行可能なアプリとして(株)シートカルクさんと開発し､ウインドウズストアにて“Rey-recorder”として販売しています｡
*2)関連論文
Okuda T, Asano K, Numata N, Hirano Y, Yamamoto T, Tanaka M, Matsuzawa D, Shimizu E, Iyo M, Nakazato M. Feasibility of cognitive remediation therapy for adults with autism spectrum disorders: a single-group pilot study. Neuropsychiatr Dis Treat. 2017;13:2185-2191.
こちらのブログも参考にしてください。
https://www.tsudanuma-ridc.com/entry/20200109/1578581714